『満ちてゆく月』
ICE BLUE(2019/02/21 配信)
【著】灯伽 
【表紙イラスト&デザイン】ヅラ(敬称略)
twitter ⇒ @zurahito
★pixiv ⇒ pixiv.me/zurahito

俺様絶倫CEO(攻め) × 中身もイケメンなAVモデル(リバ) × エロ可愛い老舗旅館の跡取り息子(受けリバ)
★3P、リバーシブル表現あり

touka_michiteyukutsuki(kindle)

2017年、投稿サイト【エブリスタ】で開催された『天下分け目のBL合戦/クロスノベルス賞』最終候補作。
2018年10月21日開催【J.Garden45】(池袋サンシャイン)にて頒布した同人誌に加筆・修正のうえ、
【番外編SS】3本を加えて、amazon KDPより配信中。

★amazon kindle unlimited対象
amazon




【あらすじ】
 26歳の咲良蒼生さくらあおいは、とある山陰の老舗温泉旅館<咲良屋>の一人息子。
 母親と二人三脚で宿の切り盛りをしている蒼生には、誰にも言えない過去があった。
 母の再婚相手である誠司せいじと8年近く不倫関係にあり、彼が亡くなったいまも忘れられないでいる。

 ある日、外出した蒼生は偶然、男どうしのセックスを目撃してしまう。
 夕刻、宿にやってきたのは偶然にも、そのときに目撃したカップル、
AVモデルの立花理たちばなおさむと、理の恋人で実業家の濱田有希弥はまだゆきやだった。
 その夜、理と有希弥のケンカに巻き込まれた蒼生は、密かにあこがれていた理と急速に親しくなり、
迷いながらも関係を持ってしまう。
 そのことを知った有希弥は、理を寝取られた嫉妬からか、
経営難に陥っていた咲良屋の資金援助の代償として蒼生を求めてくる。
 実は有希弥は誠司のかつての恋人で、誠司とおなじやり方で蒼生を抱こうとするのだが……。

 理と有希弥、正反対の魅力を持つ二人のあいだで、蒼生の気持ちは揺れ動く。




【お試し読み】

…………
『意地悪ばばあ』を出た蒼生は、店の真向かいに建つ教会の扉を押した。
 有名なステンドグラスを少し眺めてから帰ろうと思ったのだ。
 古い礼拝堂に入ると、木材とワックスに白檀びゃくだんの香りが混ざった、独特の甘い匂いがする。
 やわらかな光が色とりどりのガラスを透過し、礼拝堂の床にキリストを抱く聖母マリアの姿を投影していた。
 教会の設計者が、わざわざイタリアから職人を招いて完成させたというみごとなステンドグラスは、この町の貴重な観光資源の一つだ。
 赤ん坊ではなく、すでに息絶えた成人のキリストを抱きかかえる聖母の構図は世界的にもめずらしいらしく、ミケランジェロの『ピエタ』の影響を思わせる。
 蒼生は宗教にはなじめない。
 けれど、人間がどうしてもあらがうことのできない圧倒的な力が存在することを、身をもって知っている。
 その力につけられた便宜上べんぎじょうの名前の一つが『神』であるのなら、たしかに神は 存在しているのだろう。
 蒼生にとって『神』と呼ばれるものは、ときに慈愛に満ちており、同時に無慈悲でもあった。
 実の母親を卑劣なやり方で裏切った自分が許され、こうして生かされている。
 引きかえに、かけがえのない情人であった誠司を生きる希望とともに奪い去ったのも、おなじ『神』という存在だった。

「あ、忘れてた……」
 神父から宿泊客の紹介をされていたことを、蒼生は唐突に思い出した。改めてのお礼を伝えていなかったはずだ。
 祭壇横の通路が直接、神父の住まいである裏の母屋に通じていた。勝手知ったるなんとやらで、ステンドグラスの前を横切り、祭壇の脇を抜ける。
 母屋との境にあるドアには鍵がかかっていて、神父の不在を告げていた。
 あきらめてきびすを返す。
 そのとき、ふと視野に入った窓に意識を向けた蒼生は、その場に凍りついた。

 二人の男が、窓に張りつくようにして睦みあっている。
 窓ガラスに背中を押しつけた男の腰に、もう一人の男が顔を埋めていた。腰に伏せられた男の顔が、前後に動いている。
 口淫をしているのだ。
「あぅっ……」
 愛撫を受けているほうの男が声を出し、頭をのけぞらせた。癖のある赤茶色の髪が貼りついた窓ガラスが、みしりと軋む。
「……それ、だめっ……あっ、ああんっ!」
 茶髪の男は女のような嬌声をあげ、股間にある男の黒髪をつかんだ。さらにのけぞった頭がガラスに押しつけられ、耳ざわりな音を立てる。
 達したのだと、蒼生にはわかった。
 採光が目的の大きめの窓からは、男たちのもものあたりまで見てとれる。
 攻めていた男は、おそらく吐き出された精液を飲み込んだのだろう。しゃがんだまま、相手のベルトを外しはじめた。
 下着ごと黒いチノパンが引き下ろされ、かたちよく盛りあがった茶髪男の双丘がさらされる。
 きっと、このまま繋がるつもりなのだ。
  こんな場所で、なんて不謹慎な……!)
 蒼生はいら立った。
 行為そのものに対してではなく、こんな張りつめた清浄な空気のなかで淫行におよべる、彼らの鈍感さに腹が立った。
 それなのに、ここから動くことができない。
 チノパンから抜いた片脚を持ちあげ、肩にかついだ黒髪の男が、相手の股間にもぐり込んだ。局部を舐め、吸いあげる淫猥いんわいな音が、ガラス越しに蒼生の耳に届く。
 久しく忘れていた感覚だった。
 汗ばむ男の肌や、うごめく舌の感触。
 その舌が自分の敏感な部分をつつみ、舐めあげていくときの、身体の奥から熱いものがほとばしる、あの感覚  
 黒髪の男は、自分の顔をさらに深く、茶髪の男の股間に埋めた。うしろのすぼまりに唇を押しつけ、そこに舌を這わせているのが蒼生にも見える。
 狭間はざまを舐められている男の息が、しだいに乱れていく。
 妖しく狂おしい何かが、蒼生のなかで動きはじめた。
「……して……もう、いいから……」
 喘ぎながら、茶髪の男が訴える。
「きて……れて……」
 黒髪の男は、まだ要求に応えない。
 けれど、愛撫が激しさを増しているのが、背中を向けた茶髪男の声と動きでわかった。相手の口内に精を放ったばかりの彼が、もうたかぶっていることも  

 不意に、しゃがんでいた黒髪の男が立ちあがった。
  まずい!)
 そう思ったが、動くタイミングを逸してしまう。
 相手の片膝を持ちあげ、開かせた下肢に腰を入れてきた黒髪の男と、蒼生の視線が交わった。
 不思議な色の眼だった。
 カラーコンタクトを入れているのか、薄茶色の虹彩こうさいの周囲が緑色に滲んでいる。
 男は、何くわぬ顔をして下を向いた。
 おそらく、身体の位置を確かめたのだろう、ふたたび顔をあげると一気に腰を進め、蒼生を正面から見据えたまま、動きはじめた。
 まなざしの鋭い、俊敏な肉食獣を思わせる容貌だった。白人との混血なのかもしれない。
撫でつけただけの長めの前髪が、腰を突き動かすたびに揺れて、乱れる。
「あっ……ああ、いいっ……!」
 貫かれている男が、感極まった声を出す。
 蒼生も、抱いている側の男も、見つめあったまま眼をそらさない。意地の張りあいだった。
 こんな状況なのに、なぜ立ち去らないのか、当の蒼生にもよくわからなくなっている。
 腰を動かしながら、黒髪の男は不敵な笑みを向けてきた。
  おまえも抱いてやろうか?
 緑がかった綺麗な眼が、そう囁いている。
 蒼生の全身の皮膚が、ぞくりと粟立った。
「……はっ、は…あっ、ああっ  !」
 ひときわ高い声が響き、のけ反った赤茶色の後頭部が、窓ガラスを打つ。
 その音でわれに返った蒼生は、黒髪の男を睨みつけると、急いでその場から逃れた。

 眼にした光景を振り払うように、蒼生は駆け出す。
 心臓が口から飛び出してきそうだ。
 息があがる。
 身体が、求めているのがわかる。
(いったい、なんだってあんな場所で……それもわざわざ、誰が通るかわからない窓のそばで、あんな……)
『他人に見られるかもしれない』という緊迫感を求めて、屋外や公共の場でことにおよぶカップルの気持ちは、理解できなくもない。
 蒼生自身も、かつてカーテンをあけ放った窓辺や、人が行き交うホテルの廊下に面したドアのすぐ内側で、誠司とセックスをした経験があった。妙に興奮したのを覚えている。
 けれど、まさか  
 まさか、こんなのどかな真っ昼間の田舎町で、しかも窓越しとはいえ眼の前で、あんなものを見てしまうなんて。
 河にかかる橋の手前までもどってくると、蒼生は近くにある公衆トイレに駆け込んだ。
 個室に入り、鍵を下ろす。
 便座に座るとダウンコートを開き、作務衣さむえの下で息づいている自分の身体に、あわただしく手を伸ばした。
 そり返った雄芯を手のひらで包んで、あやしてやる。
 あさましいな、と泣きたくなるけれど  
 抱かれたかった。
 人肌の甘い匂いを嗅ぎ、ぬくもりを感じたかった。
 窓に押しつけられ、貫かれて喘いでいた茶髪の男がうらやましい。生身の人間と肌を触れあわせることのできる男たちが、恋愛とセックス込みのパートナーを手に入れているすべての人間が、いまの蒼生にはうらやましくてしかたない。
 蒼生の恋人は  愛人であり、義理の父親でもあった誠司は、もう、この世にいない。



…………続きは電子書籍でお楽しみください。


★amazon kindle unlimited対象
amazon




小説家ランキング ←「ぽちっ」と応援お願いします❤